僕と ABU Ambassadeur No.5000

オールドリールという存在の中でも、最もオールドらしい物といえば、僕は「ABU Ambassadeur」と答える。

赤いカップにクレストマークが付いたベイトキャスティングリール。現行で販売しているリールにはないクラシック感。 SNSやアパレル雑誌に現れるあのリールは、僕の憧れの一つだ。

憧れとはいえ、今やスマートフォンで数タップすれば数万円払えば手に入ってしまう代物だ。 すぐに手に入れても良いのだが、それだとつまらないと思う。

憧れを現実にする時は、少しでも特別であってほしい。 少しでも特別であれば、僕と憧れを繋げるストーリーが深く濃いものになり、未来の自分がより幸福になるキッカケになると信じているからだ。

そんな僕の憧れだった「Abu Ambassadeur No.5000」を手に入れた。

実質無料で何かを手に入れたかった

Vポイントが1万1000円ほど溜まっていた。

これはデビット(クレジット併用)カードを使った額だけポイントバックされる某銀行のポイントだが、 これは1ポイント1円で使える。

かつ、Vポイント用の仮想カードを作成できるので、カードが扱えるお店であればVポイントを使って支払いができる。 つまり実質無料で買い物ができる結構強めのポイントだ。

これが1万1000円ポイントもあるし、かつ実質無料のポイントなので、なにか形になるものを購入したかった。 実質無料で手に入るのだから、お得感というか、結構特別なイベントだと思っている。

そういうことを考えながら、京都のタックルベリーへ足を運んだところ、 「Abu Ambassadeur No.5000」がショーケースに置いてあった。

2台の憧れが目の前に

「Abu Ambassadeur No.5000」が2台ショーケースに売られていた。

片方は「Big A モデル」で11000円、もう片方は「No.5000 モデル」の9000円。 インターネットの相場はおおよそ15000円ほどなので、両方とも結構お得だと感じた。

Big A モデルは状態が良かったが、No.5000 モデルはかなりボロボロだった。

かつ、No.5000モデルの方は「傷多数、レベルワインダーが右に寄ります」と書いてあり、 難ありの症状があると商品説明に書いてあった。

故に9000円の価格設定のようだが、そんなボロボロのアンバサダーに僕は運命を感じた。 傷は車用のタッチアップで直せばいいし、レベルワインダーも見たところネジが緩んでいるだけだと思うし、 治すのは簡単そうだ。

さっそくVポイントを支払って、ボロボロの格安アンバサダーを実質無料で手に入れた。 憧れを手に入れるストーリーとして十分だった。

ボロボロのアンバサダーをオーバーホールする

まずは写真を見てほしい。

やはりボロボロだ。かつ、これほどの傷がついていると9000円でも購入する人はいるのだろうかと思うが、 これもまた縁だと思うのだ。

それにここまで使われているリールなのだから、相当愛されたのだろう。 No.5000 は昭和60年代のリールと言われているので、持ち主はすでに他界されている可能性もある。

でもサビはないから、海で使わずに淡水で使っていたのだろう。 ブラックバスを釣っていたのだろうか…?

そんな想像をしながら、分解して整備していく。

分解してみるとグリスも硬化していたり、黒い汚れが目立っていた。 これをパーツクリーナーで洗浄して汚れを落とした後、SHIMANO のグリス、オイルを新たに塗って、内部パーツを保護した。

そしてパーミングカップは車用のタッチアップを塗って、傷を隠した。 これがなかなか上手くいった。

そうして整備が終わった。

思っていたよりも綺麗になった。 それに商品説明のレベルワインダーが右に寄る問題も解消されたので、整備は上出来だと思う。

こうしてボロボロのアンバサダーは、また新しい時間を刻むことになる。 美しくなったアンバサダーは、どこか自信ありげに見える。

それにしても、整備をしている時にふと思うことがあった。

自分よりもずっと年上のこのリール、僕よりもこの世に在り続けるのだろうか? ……釣具は人よりも長生きするかもしれない。